TKC全国会とは

TKC全国会会長 大武健一郎

 

元気な会社のビジネスドクター
1万名超の税理士集団

 TKC全国会は、租税正義の実現と関与先企業の永続的繁栄に貢献することを目的として結成された、我が国最大級の職業会計人集団(全国1万名超の税理士・公認会計士のネットワーク)です。

 このほどTKC全国会では、2010年からの活動スローガンとして「元気な会社のビジネスドクター 1万名超の税理士集団 TKC全国会」を決定しました。これは、関与先企業経営者が“元気な会社”をつくり、さらなる成長・発展をしていけるよう、従来からの支援活動をさらに強力に推し進めていくことを宣言するものです。

 私たち税理士の使命は、ただ単に税務申告の作成や税務相談に応じることだけではありません。中小企業の喫緊の課題である資金繰りに関する支援をはじめ、経営者とともに「経営改善計画」を策定し、さらに、その実行にあたって経営者の相談相手となる税理士は、いわば企業の“ビジネスドクター”ともいうべき存在です。

 私たちTKC全国会の税理士は、“ 税理士は「企業経営者の一番身近で親身な相談相手」”との信念のもと、関与先企業のビジネスドクターとして、積極的に活動してまいります。

経営者と税理士のタッグで未曽有の不況を切り抜けろ!

 少子高齢化やグローバル化の進展で激動する日本経済のなかにあって、会計業務を通じて全国の中堅・中小企業の経営をサポートしている「1万名超の税理士集団」がある。それがTKC全国会だ。このTKC会員に対して、「関与先企業が未曽有の不況に直面しているいまこそ、税理士は関与先企業のビジネスドクターであれ」と強く提唱している大武健一郎会長にインタビューした。

日本企業を襲う3つの大変化

――企業の経営環境は依然として厳しい状況が続いていますが、現状をどうご覧になっていますか。

  日本経済は、いま世界同時不況という危機のなかにあるといわれていますが、私は、むしろ複数の変化が積み重なった「大きな変化」の真っただ中に向かっているのだと考えています。その変化とは「グローバル化」「超高齢化」「環境制約・資源制約の顕在化」の3つです。例えば、サブプライムローンの問題も、グローバル化の流れのなかで起きた事象の1つにすぎないでしょう。いま、「100年に一度」の危機といわれていますが、それは“米国発”の危機が100年に一度なのであり、グローバル化したこれからは、10年に一度ずつ同じような局面を繰り返すと考えています。

 では、3つの変化は、日本経済にどんな影響を与えるのでしょうか。

 第一に、経済のグローバル化によって、すべて世界の“モノサシ”で測られるようになります。典型的な例が地価で、地方都市の地価下落もグローバル経済において中国の安い地価に引っ張られた結果といえ、「ヒト・モノ・カネ」のすべての生産要素の値段が下がっていく「デフレ現象」が始まっています。

 第二に、日本は超高齢化とともにすでに人口減少社会に突入し、特に働き盛り、食べ盛りの生産年齢人口は15年前から年々減っています。従って国内の個人消費は増えようがありません。企業は海外、特にアジアの国々へ進出せざるを得なくなるでしょう。

 そして第三が、「環境制約・資源制約の顕在化」です。地球という限られたなかで、近代的な生活をする人間が増えており、発展途上国の生活水準が先進国並みに近づくほど、エネルギーや食糧資源はどんどん不足していきます。これは非常に深刻な問題です。

 こうした変化は、すでに1990年代初めから、これらの要素が交わりながら日本社会に襲いかかっていました。しかも、いずれもまだ序章にすぎず、これからが本格的な変化の時代の始まりです。企業経営者は、そのことをしっかりと理解しなければいけない。いままで通りの経営をしていては、この大きな変化の時代を乗り切ることはできないのです。

 ですが、見方を変えれば、これからはピンチがチャンスとなる時代ともいえます。大切なのは、これらの原因と本質、真実を知って、どう対応するかであり、ただ大変だと騒ぐのではなく、この大きな変化をチャンスととらえて、その波にいかに乗っていくかを考えることが重要です。変化の時代には、必ずしも強いものや大きいものが勝ち残るとは限りません。むしろ、規模は小さくても特技を持ち、しなやかな発想と行動力を有する中堅・中小企業の方が、成功する可能性が高いのではないでしょうか。

 日本の中小企業は、財務内容だけを見て弱いものといわれますが、私はそうは思いません。これまで日本人は、勤勉さや異質なものを吸収する適応力、そして繊細な感性で多くのことを創意工夫してナンバーワンに仕上げてきました。特に、これまでの厳しい経済環境を生き残ってきた企業は、変化の時代にも十分に対応できるたくましさを持っているのです。

モノづくり大国・日本の未来戦略

――中堅・中小企業にとっては、新たなチャンスが開かれると。

 日本は世界でも珍しい「モノづくり大国」です。かねて高機能素材や環境技術などモノづくりの技術を磨き、世界から「クール・ジャパン」(かっこいい日本)といわれるまでの信頼感を得てきました。いまこそ日本は、持ち前の存在感を発揮する絶好のチャンスだと思います。

 例えば、資源不足社会へ向かうなかで、日本が持つ、原材料を節約して生産する技術や省エネ・環境技術がますます威力を発揮することになるでしょう。また、日本は世界でも最初に超高齢化社会を経験する国になりますが、そういう時代に対応したモデル国家として認められれば、世界中にそのノウハウ、技術を役立てることができます。

 しかし、日本の中堅・中小企業の現状を見ると、素晴らしい技術力や商品開発力があるにもかかわらず、世界同時不況によって売り上げが落ち込み、財務状況が急激に悪化して苦しんでいるところが多いのも事実です。そうした能力のある企業を、なんとしてもつぶさないように、金融的な支援をしていく必要があるでしょう。

――そのために、いま企業経営者に求められることは。

 それは、「会計」によって、自分の経営にしっかりとした視座を持つことです。右肩上がりで、類推や直感力で商売できた時代は終わりました。こういう大変な時こそ、「会計」を基本にすえて、しっかりとした経営計画を策定し、企業の着実な維持・発展を図ることが不可欠です。

 残念ながら一部の経営者は、いまだに記帳は税務申告のために必要なものと考えています。しかし、それは間違いです。複式簿記とは、14世紀にベニスの商人が、何を売ってもうけ、何で損をしたのかを表すために作った発明です。その後、商売のために複式簿記を重視し完備するという動きは、ヨーロッパ全土へ広がりました。後に、イギリスは公平な課税のために所得税や法人税を発明し、その課税の根拠として、すでに普及していた帳簿を活用しました。しかし、日本では帳簿がなく、後から帳簿をつけるよう勧めたことから「税金のため……」との認識が広まりました。この認識を変えなければなりません。

 なぜ、投資家など外部の利害関係者へ報告義務のない中小企業にも記帳や決算が義務づけられているのかといえば、それは「自己報告」のためです。つまり、帳簿は誰のためでもなく、倒産を防止するため、自分の会社の利益を上げるため経営者が自らに報告するために作成するものなんです。また、いま経営者に最も必要なのが、未来に向けてどのような戦略を立てるかですが、「会計」はこうした将来の変化に対する対応策や解決策を検討・作成するためのツールでもあります。

 日本には、この会計を使って中小企業の財務体質を診断し、生き残りのための「処方箋(しょほうせん)」を作成する役割を果たす「ビジネスドクター」ともいうべきプロがいます。それは、日本が生み育ててきた税理士です。税理士は、経営者にとって最も身近な相談相手となりえる存在です。この難局を乗り切るためにも、経営者は税理士を大いに活用してほしいと思います。

元気な会社のビジネスドクターとして

――ビジネスドクターとしての、税理士の役割とは。

 ビジネスドクターとしての税理士は、税務申告の作成や税務相談を受けるだけの存在ではありません。何を売ってもうけ、何を売って損し、どの資産を活用すれば利益が出るのか、そうした中堅・中小企業の状況を一目瞭然(りょうぜん)で判断できる「カルテ」を作り、病状をしっかりとつかんで治す手助けをする。あるいは、現状を前提とした将来の売り上げや経費を推定し、その売り上げの変化が将来の損益にどのように影響するか、さらに、それを改善するためにはどうすべきか、などを分析し、経営者が対応策を検討するのに役立つ「処方箋」を作成します。

 日本経済はいま激しいうねりのなかにいます。これを乗り越えられるのは、よきビジネスドクターのいる企業です。

 右肩上がりの時代は、国が総需要政策をやれば日本全体が救われましたが、グローバル経済においては日本だけで日本の企業を救うことはできません。ましてや国が個々の会社を強くすることなど不可能です。しかし、よきパートナーであり、ビジネスドクターである税理士ならば、それができる。恐らく、これからの時代は、優秀なビジネスドクターがいる企業と、そうでない企業とでは大きな差が生じると考えています。

 TKC全国会では、これまでも1万名超の税理士が中堅・中小企業の最も親身な相談相手として、その存続と発展を支える活動を展開してきました。こうした活動は、今後ますます重要になるでしょう。その意味では、いま税理士一人ひとりの力量も試されているといえますが、我々は「元気な会社のビジネスドクター」として、今後もさまざまな活動に取り組みます。

いま、私が最も気がかりなのは、日本の企業が未来にかける夢を見失い、果ては他人任せの姿勢になってしまうことです。明治維新は、諸藩のむしろ下級の藩士たちが立ち上がり、時代を変えた結果達成されました。変化は誰かが変えてくれるものではなく、自らの責任で起こすものです。坂本龍馬も夢に向かって脱藩し、大事を成し遂げたわけです。自分たちの未来は、自ら切り開いていかなければなりません。そのためには、時代の変化にしなやかに粘り強く適応し、しっかり生き残っていくことです。

 このためにも、TKC全国会の1万名超の税理士が、ビジネスドクターとして、日本経済の活性化と雇用拡大の原動力となる元気な会社の未来への挑戦を全力で支援していく――。それが我々の社会貢献であり、使命であるとの気概を持って、これからもまい進していきます。

TKC全国会会長 大武健一郎 氏
おおたけ・けんいちろう
1970年、東京大学卒業後、旧大蔵省に入省。主税局長、国税庁長官を歴任。20年間税に携わり、税理士法の改正、日米租税条約の全面改正を手がけた。TKC全国会筆頭副会長を経て、2009年7月15日より会長。『大変!』(かんき出版)、『税財政の本道』(東洋経済新報社)など著書多数。

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